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遺伝性乳がん患者として思うこと

2015年4月16日

私は、遺伝性乳がん患者です。父方の遺伝子に変異があり、姉といとこが同じく乳がん患者です。
私が乳がんを発症したのは平成16年、33歳のことでした。それから3年後の平成19年、今度はいとこと姉がたてつづけに乳がんを発症し、私たちは主治医から遺伝子検査を受けることを勧められました。私はその頃独身でしたが、姉は結婚していて3人の子供がいます。もし遺伝性だとわかれば、家族、特に子供たちへの影響を考えなくてはならず、たいへん悩みました。でも「きちんと自分のことを知っておきたい」という気持ちが強かったことから、検査を受けることを決めました。

 結果は、やはり遺伝性乳がんでした。私も姉もショックはありましたが、原因をはっきりと知ることができて「ほっとした」というのが正直な気持ちでした。姉から結果を聞いた義兄は、「気にしすぎないで今まで通りでいいからね」と言ってくれたそうです。また、子供たちにもリスクのことをきちんと伝えることができてよかったと言っていました。

 私は、はっきり知ることができてよかったという思いとともに、「もう結婚や子供は無理かもしれないな…」と諦める気持ちもありました。私はもう1人で生きていくしかないんだと。

 しかしその後、私は愛する人と出会いました。その人には、乳がん患者であることは最初に伝えていましたが、遺伝性であることはなかなか話すことができませんでした。悩んだ末に遺伝性乳がんであることを伝えましたが、「これで結婚できなくなったらどうしよう…。」と、心の中は嵐のような状態でした。話す声も手足も震え、顔は硬直していたと思います。

 でも、彼は私の話を聞いて、「そんなことは気にすることはないよ。リスクがわかっているということはむしろ強力な武器だと思う。それよりも、今までよく1人でがんばってきたね。」と言ってくれました。その言葉に私は涙が止まらず、勇気を出して伝えて本当によかったと思いました。これが私にとって、遺伝性乳がんサバイバーとしての第1歩になりました。

 その後、私たちは結婚し、3年が経ちました。夫の家族にも、私が遺伝性乳がん患者であることは結婚前に伝え、理解してもらっています。

 遺伝性のがんに対してはまだまだ社会的な理解は低く、私自身も以前は遺伝子検査のことすら知りませんでした。最近ではアンジェリーナ・ジョリーさんの報道によってずいぶん知られるようにはなりましたが、日本での遺伝子検査はまだわずか数百件にとどまっています。これは、自費での検査のため30万円ほどかかる経済的な負担と、遺伝性のがんに関する知識を持つ医師や、心理面での支えとなる遺伝カウンセラーが少ないことが大きな要因であると考えます。ちなみに、保険が適用されている韓国では遺伝子検査率は9割にのぼります。まずは保険を適用し少ない経済的負担で受けられるようにしてほしいです。また、自分だけではなく家族にも関わってくるという患者の精神的な負担を支える、心理面でのサポート体制を全国的に整えてほしいと思っています。

 そうして遺伝子検査を受ける方が増えていき、いつか検査を受けることが当たり前になっていくことで、遺伝性のがんに対する社会の認識も変わっていくと考えます。偏見や誤解のない、遺伝子レベルでのリスクを知ることが当たり前の世の中になっていくことを、心から願っています。

(長谷川智美さん・40代)