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早期発見の意外な落とし穴(清水 敏明さん)

2013年9月10日

平成23年の9月頃からスタートです。
「なんかおかしいな~」
と、思いつつも♂45歳といえば企業の歯車として大回転中、休日なんて合ってないようなもの、家庭を顧みず日々仕事漬けの毎日です。
市販の薬でも塗っとけばじきに治るだろう、くらいの気持ちでその時はあまり気にも留めませんでした。
しかし、あまりにも治りが悪く、仕事の合間を縫って近所の内科医へ。
「この塗り薬で様子見てください~。」
と言われ、しばらく様子を見ていましたが、一向に治る気配がありません。
その後、耳鼻科咽喉科、歯科と行きましたがそこでも、
「この塗り薬で様子見てください~。」
との事で、時間ばかりが過ぎていきました。
今にして思うと、この時着々と癌細胞が増殖していたのです。
徐々に痛みが強くなっていくので、もう一件別の歯科に行ってみました。
すでに年も明け、平成24年2月の事です。
そこで簡単な検査を行い、先生はこうおっしゃいました。
「紹介状を書くので、専門の病院に行ってください。」
その先生の一言がなければ・・・長島先生ありがとうございます!

その2日後、横浜市立大学付属病院の口腔外科を訪れました。
その時は、まだ癌ということは頭にありませんでしたので、飲み薬でももらって終わるのかな、と安易に考えていました。
そして、数人の先生に診察してもらい、最後に外科部長の先生から癌の疑いがあることを告げられたのです。ガーン。
あまりのショックにその場で石像と化してしまった僕を見かねて、
「大丈夫、大丈夫。2~3時間の手術で終わるから。」
と笑顔でおっしゃってくれた先生の顔が今での目に浮かびます。
それからバタバタと検査に次ぐ検査を経て、平成24年の3月29日に手術を受けました。

当初、画像診断ではリンパ節への転移はなかったのですが、すでに小さな大きさで転移している可能性があるとの事で、センチネルリンパ節生検を同時に行いました。
検査の結果、リンパ節への転移が確認されたため、追加で頸部郭清術のための再手術を行う事となり、一時退院後、再び入院です。
2度目の告知でしたが、その時はショックというより、早く見つかってよかった~、と言う安堵感が強かったと記憶しております。
手術後、摘出したリンパ節の生検を行った結果、なんと3箇所に癌が転移しており、さらに追加の放射線治療を行う事となりました。
退院後、合計46グレイ、23日間の放射線治療を通院で行い、治療後には味覚障害や唾液が出なくなったりと後遺症が出ましたが、現在は大分回復しております。

平成24年12月、術後半年目のペット検査で、右顎骨の内側に癌の再発が確認されました。
急遽年明け一番で入院することになり、その日から抗がん剤の内服が始まりました。
この時先生から、術後喋ること、食べることにかなりの障害が残ることの説明を受けました。しかし、命には変えられません。
平成25年1月8日、右顎の骨と舌半分、その周りの筋肉や神経の合併切除を行い、チタンプレートと腹直筋を移植する再建手術を受けました。
手術時間はなんと、朝9時から翌日の明け方4時と19時間にわたる大手術となりました。
その後、ICUで3日間眠り続け、回復を待って一般病棟に移り、2月15日退院の日を迎えました。

しかし、僕の癌細胞は本人と違ってかなりネチネチしたしつこい奴だそうで、追加の抗癌剤治療をする事になりました。
TS-1の長期継続と、シスプラチンの投与です。シスプラチンは体にかかる負担が大きいので2週間再入院して行いました。完全にリバースする事はありませんでしたが、食事は食べることができず、手術・抗癌剤と合わせて10キロ痩せました。

正直、体に異変を感じてかかりつけ医に行った時点で、すぐに紹介状を書いてくれていれば、ここまで大掛かりな治療にはならなかったと思います。
又、入院して同じ病棟の人と話をすると、同じような経験をしている人が沢山おりました。
今、癌治療の現場では、早期発見が何よりも大切だということが言われています。
しかし、私のようなケースはどうでしょうか?
会社で年に一回の健康診断があるのですが、毎年「輝いてます健康」の太鼓判を押してもらい、フルマラソンの大会にも出場していましたので、自分の健康を過信していたのも、発見が遅れた理由の一つかと思います。
又、口の中は肉眼で見ることができるので、他の部位にできる癌に比べて本来は発見しやすいはずですが、たまたま始めに行った歯科や耳鼻科の先生が癌の知識を持ち合わせていなかった事も理由の一つでしょう。

私のかかりつけの医師は、何年にもわたり家族全員面倒を見てもらっており、今まで特に問題があったこともありません。おそらく地域医療については大部分の人が同じように感じているのかと思います。ですので、かかりつけの医師が問題ないといえば、自分自身が癌である事を信じたくないという心理的なものもあり、疑う事もなくそのままにしてしまうのです。

例えば虫歯治療であれば、かなりの人が受診をしているはずです。その際少しでも疑わしい部位があれば、簡易的な検査をしてみる、ということを標準治療とする。
あるいは定期的な健康診断の際に、口腔内の検査を項目に加えるなどといったことが必要ではないでしょうか。

口腔癌は全体から見れば少数派なので、なかなか啓発活動も進まないかと思いますが、私の経験が口腔がんの早期発見に少しでも役に立てればと思います。

清水敏明 (40代、男性)